水を知る
AQUA / Life

北極は2〜3mの厚さの氷で覆われていてその下に陸地があるように見えますが、夏には溶けてなくなってしまうことも。これは、氷が水に浮くという特性があるためですよね。周辺にはシロクマやシロイルカ、数種のアザラシなどが、そして氷の下ではクリオネ、クラゲ、イソギンチャクなどさまざまな生物が生息しています。

Discovery
水のカタチ

illustration: SHOBU TSUCHIYA
なぜ氷は水に浮くという疑問から、水の異常性に感謝する
2021/06/10

なぜ氷は水に浮くのかと聞かれたら、氷の方が水より軽いからと答えますよね。でも、「どうして固体の氷の方が液体の水より軽くなるの?」と聞かれたら、ちょっと考えてしまいそうです。コップの中で氷が水に浮いている様子をよく目にしているので、当然だと思っていますが、よくよく考えると固体は液体より重いはずですよね。

普通、物質は液体から固体に変わるときに体積が減り、つまり密度が高くなって重くなる。理科の授業のときにそんなことを教わった気がします。ではなぜ、水は固体になると軽くなるのでしょうか。

その要因とされているのが、水分子同士をつなぐ「水素結合」だといいます。水分子(H2O)は1個の酸素(O)と2個の水素原子(H)が結合してできていますが、1つの水分子のOと別の水分子のHがくっつくのが「水素結合」で、そのため水分子はくっつき合ってつながっています。水分子同士が手を取り合って連なっているイメージです。

水分子同士をつないでいる手がどうなっているのか。水以外の多くの液体は温度が凝固点以下になると固体になり、液体の中に沈みます。液体のときには分子が自由に動いていますが、温度が下がると分子の動きが鈍くなり、狭い場所に固まるため密度が高くなります。

でも、水の水素結合の場合は逆。氷のときにすべての水分子は手をまっすぐ伸ばして突っ張った状態で、正四面体がたくさん連なった結晶構造になります。かなり隙間の多い状態で固まっているのです。

温度が上がって氷が溶けて水になると、水分子が動き回るようになり、結晶構造が崩れて、結晶の隙間に水分子が入り込んだりして動いているため、密度が高くなるのです。

通常の物質とは異なり固体に変化する際に体積が増加して、密度が低くなる水のような物質を異常液体といい、水以外ではゲルマニウム、ケイ素、ガリウム、ビスマスといったごく少ない物質に限られています。私たちにとってはとても身近な水ですが、実はとても特殊な物質なのです。

もしも氷が水よりも重かったら、真冬の海や湖などでは表面で凍った氷がどんどん沈んでいき、水の底から全体が凍ってしまうことになり、水中の生物は生きられなくなってしまいます。水面を氷で覆われてもその下で生命が息づいていられるのも水の変わった特性のおかげなのですね。