水を探る
AQUA / Research / Talk: 8
金沢大学理工研究域フロンティア工学系 
瀬戸 章文教授に聞く

Talk: 8
金沢大学理工研究域フロンティア工学系  瀬戸章文教授に聞く

聞き手:中能 泉(AIR Magazine編集長)
photographs:伊藤晴世 / HARUYO ITO
水粒子や微粒子は小さくて不安定。私たちの体内にダイレクトに届くため影響が大きいのです
2026/03/13

私たちはごく当たり前のように、空気の中で生活をしています。空気は透明に見えても風に舞う砂埃、漂う花粉や煙、目に見えない小さな水粒子やウィルスまで、さまざまなものを含んでいます。私たちの身近にあるあらゆる微粒子を研究し続けているのが、金沢大学理工研究域の瀬戸章文教授です。空気中の微粒子の正体は? 私たちの体や暮らしにどのように影響しているのか、微粒子の謎について伺いました。

瀬戸章文教授

目には見えない「微粒子」の研究とは、具体的にどのようなことをされているのですか?

瀬戸微粒子といっても実にさまざまで、例えば、大気中だと塵や花粉など目に見えるものもあればウィルスなど目に見えないものもあります。それらを計測して環境への影響を調べたり、微粒子の正体や変化のメカニズムを明らかにしたり。私たちの体への影響を調べて、悪い粒子であれば制御する方法を開発したりします。空気清浄機などのフィルターやマスクの開発などがこれに該当します。

私たちが快適に過ごす空間をいかに作るか、ということですね

瀬戸それだけでなく、工業材料の構成要素になる微粒子、いわゆるナノ粒子材料などの技術開発をして製品に応用したりもします。化粧品や医薬品にも微粒子は使われているので、そういう研究も人々の快適な暮らしや空間につながっているのではと思っています。

確かに、化粧品などにもナノ粒子は使われていますよね。一言で微粒子と言っても幅広いのですね

瀬戸そうですね。半導体の製造工程ではクリーンルーム、つまり微粒子の全くない空間をどう作るかが重要です。また、PM2.5や自動車の排ガスをはじめとした大気環境の研究では、空気中の微粒子を高精度に計測する技術が求められます。2000年ぐらいから発展したナノテクノロジーの研究では、機能性ナノ粒子の合成やナノ粒子の生体影響、高性能エアフィルタの研究など、より微細な微粒子の研究へと展開しました。コロナウィルスやPM2.5(*1)などの有害性粒子を効率的に捕集するフィルターをどう作るか、これは簡単に見えて、かなり難しいテーマです。最近は、車の内装や車室環境についても研究を進めており、エアコン用のエアフィルターや、車室内の二酸化炭素濃度変化などを快適性と関係づけて研究を進めています。

自動車は密閉空間ですから、空気の影響は大きいですね

瀬戸その通りです。室内や移動空間内で暮らす時間が多い現代では、空気が人に与えている影響は想像以上に大きいと言えます。そもそも、空気は約75%が窒素、約23%が酸素と、ほとんどがこの二成分で構成されています。地球温暖化の主な原因になっている二酸化炭素は0.04%(400ppm)ぐらいですが、この程度の二酸化炭素でも地球全体に大きな影響を与えています。水は3番目に多いのですが、空気に含まれる水蒸気、すなわち湿度は、空気中の質量の割合にすると2%以下程度です。

空気中の成分は7割強が窒素で、酸素は2割強。残りに水やアルゴン、二酸化炭素、さらに微粒子が含まれています。これらはエアロゾルと呼ばれ、1㎠中に1000個程度存在していますが、特にその中の鉄、銅、鉛などの金属は微量であっても人体に入ると呼吸器・循環器の疾患を引き起こす等、悪影響を及ぼすことがわかっています。

空気中の水ってそんなに少ないんですか? 湿度は肌で感じるので、もっと多いのかと思っていました

瀬戸そうですよね。カラカラに乾燥した状態が0%、約2%でもう飽和湿度です。空気は私たちの皮膚や髪に接触しているので、乾燥していると髪の毛がカサカサになり、湿っているとしっとりする。私たちは空気中の水に対して高い感度を持っているんですね。微粒子はもっと少なくて、1kg(およそ1立方メートル)の空気に10μg(マイクログラム/1μgは100万分の1g)ぐらいの割合しかないのですが、これでもWHO(世界保健機機関)の基準では「空気が汚れている」ことになります。つまり、空気中にこんなに少ない割合の物質でも私たちの体に影響を及ぼすわけです。黄砂や花粉、タバコの煙など我々の目で見える微粒子は、数百nm(*2)(ナノメートル)から1μm(マイクロメートル)ぐらいの大きさです。それより小さいものは目には見えませんが、ナノ粒子から分子の集合体まで、さまざまな微粒子が空気中に存在しています。その起源も、土壌や海塩粒子など自然由来のものや、排ガスのように人為由来のものなど多岐にわたります。

とっても少ないのに私たちの体に影響を与えるのはなぜなのでしょう

瀬戸大気中のPM2.5の微粒子の濃度は、10μg/㎥程度というとても少ない量なのですが、この中には鉄や鉛などの金属や無機物、有機物の炭素なども含まれています。粒子の大きさが2.5μm以下となると、呼吸にともなって容易に肺の奥まで入り込んで沈着するため、体に影響を与えやすく、呼吸器疾患や心血管疾患のリスクなどが懸念されているのです。

小さいために肺の奥まで届くというわけですね。日常生活にはどの程度の影響があるのでしょうか?

瀬戸空気の質に関しては、環境省が毎年調査していますが、日本では長年の努力の結果、かなり改善されていると思います。通常の生活には大きな問題はほとんどないと考えても良いと思います。いずれにせよ、人間は、すごく少ない量の微粒子でも影響を受ける可能性があると言えます。空気中の微量の水分の変化に対しても皮膚や呼吸器で敏感に感じることができるのかもしれません。

空気中の水も微粒子と捉えていいのでしょうか。

瀬戸空気中に含まれている水蒸気は、水滴のような微粒子ではなく、一般的には窒素や酸素と同様に、気体の分子として存在しています。ただ、例えば、雲や霧は水滴ですよね?これらは、たくさんの水蒸気を含む空気が冷却され、飽和状態を超えてできると考えられています。このときにも空気中の微粒子は重要な役割を果たしています。先ほども説明した通り、空気中にはさまざまな微粒子が存在しており、これらはエアロゾルと呼ばれます。エアロゾルの濃度を個数として数えると、1㎤に1000個程度です。これらのエアロゾルは、海や湖から蒸発した水蒸気とともに上空に巻き上がると、「核」となって水蒸気が凝縮して、水滴、つまり雲になります。このように、エアロゾルは雲のでき方に影響を与えていて、その雲が上空のどの高度でできるかによっても地球が温暖化するか寒冷化するかが決まります。雲が日陰になって熱を遮るか、地表から放射される赤外線を雲が吸収して温めるか、どちらにも働くので、エアロゾルは地球温暖化に非常に関係していると考えられているんです。

水蒸気が微粒子を核として水滴を作って雲ができるわけですね

瀬戸はい。ただ、そこには「過飽和」という、飽和状態を超えた状態が必要になります。気体の水蒸気が液体の水になる現象を凝縮といいますが、これは水分子同士が水素結合でくっついていく現象です。冬にガラスに水蒸気が凝縮して結露するのを経験されたことはあると思います。ところが、空気中でこの凝縮が起こると、空気中に浮かんだ水滴はガラスのような「平面」ではなく、表面張力によって「球」を作ろうとします。しかし、水滴表面の水分子は結合する水分子の数が相対的に少ないために不安定になり、蒸発して気体の水蒸気に戻ろうとします。そのため、水蒸気が凝縮し続けて水滴が大きくなるためには、ある「壁」を越える必要があります。そして、この壁を越えるきっかけを作るのが過飽和です。水滴を作って大きくするには、無理やりそういった水蒸気を押し込んでいる状態を作ってあげる必要があるということです。

水蒸気とともに空に巻き上がった微粒子(エアロゾル)が「核」となり、上昇気流で持ち上げられた空気が冷やされて水滴が作られ、雲粒になります。このときに、湿度が100%であるだけでは雲粒が成長しにくいため、湿度が100%以上になる「過飽和」状態で雲粒が水滴へと成長します。雲の中では常に雲粒の発生と蒸発が繰り返されており雨粒ができるのには「過飽和」状態が必要なのです。

どうすれば、その「過飽和」の状態を作ることができるのでしょうか?

瀬戸大量の水蒸気を発生させて急激に冷却することが必要です。例えば、大気中では海や湖などから発生した水蒸気が上昇気流によって一気に上空へ運ばれて冷却されることで過飽和となり、雲ができます。このとき、水の微粒子が成長できる条件として、先ほども述べたように空気中に核となる微粒子(チリや埃)があることと、高い過飽和状態が形成されていることの2つが必要があるというわけです。

過飽和というと、理科の時間で習った「水は100℃では沸騰しない」というのを思い出しました

瀬戸はい、それと同じ理屈です。純水が100℃以上でも沸騰しない状態も過飽和状態になっています。ここに沸騰石という「核」を入れてあげると、ちょうど100℃で沸騰する。同様に、例えば水を入れたペットボトルを凍らせようとして冷凍庫に入れておくと、冷凍庫の温度は0℃以下なのに見た目は水のままで、何か衝撃を与えると急に氷ができることがある。これは「過冷却」といいますが、やはり過飽和状態にあるわけです。0℃以下でも100℃以上でも液体の水が存在している状態が過飽和で、何かきっかけがあれば一気に状態の変化が進みます。

空気中の水はそのような不安定さや特性ゆえに、まだまだ謎が多いのでしょうか

瀬戸そうかもしれませんね。水は微粒子状態になると、非常に不安定で寿命も短く「捉えどころがない儚い物質」なんです。そこが難しくも面白いところです。微粒子は「見えそうで見えない」というのも面白いところです。例えば、遠くの山がだんだん霞んでいくのも空気中の微粒子の影響ですよね。遠くの物体を確認できる距離は「視程」と呼ばれますが、これは微粒子と光の相互作用で見えたり見えなかったりする現象で、気象用語として使われています。

風景を見るのに微粒子を意識してみると面白いですね。先生は、その微粒子を計測したり、可視化したりする研究をされていますが、具体的にはどのように計測するのですか?

瀬戸例えば、静電分級器という装置があります。簡単にいうと微粒子を帯電させて気流に沿わせて、静電気の力で大きい粒子と小さい粒子に分ける方法です。大きい粒子は空気抵抗がかかり動きづらい、逆に小さい粒子は速く動ける。それを利用して、粒子を大きさで分けて計測するわけです。またレーザー光で粒子を1個1個数える装置もあります。レーザーが照射されているところに粒子が通るときらっと光る、その光をセンサーで測る装置で、パーティクルカウンタと呼ばれます。

今、微細な水粒子の計測をされていると伺いました

瀬戸はい。企業(株式会社アイシン)が開発した特殊な技術で生み出された「微細な水粒子」についての共同研究です。とても小さな水で1〜2nm(ナノメートル)ぐらいのサイズを想定して実験と理論の両面から研究を行っています。下のグラフは、1nmぐらいの微粒子の「種」を入れ、その後「微細な水粒子」を通すとそれが成長するかどうかを見た実験です。上のグラフは2.5nm、下のグラフは世界最先端の1.4nmのサイズまで測れるもので2.5nmと1.4nm間で見ていただくと、1.4nmの方がたくさん個数がカウントできています。もしかしたら、「微細な水粒子」はこの間あたりにいるのではないかと推測しています。

瀬戸教授は、ナノサイズの粒子の径を計測するためのSMPS (Scanning Mobility Particle Sizer)というシステムを用いて、アイシンが開発した微細水粒子のサイズを計測。上のグラフは2.5nmのサイズを、下のグラフは世界最先端の1.4nmのサイズまで測れる機器でそれぞれ計測し比較したところ、1.4nmのほうが多くカウントできていたことから、微細水粒子は1.4nm前後の径である可能性が示唆されました。

その微細な水粒子は長い間そのサイズでいることはできるのでしょうか

瀬戸ずっとそのサイズのまま、存在し続けるのは難しいと思います。さっきお話ししたように水粒子はとても不安定で、測ろうとすると消えてしまうため、計測がとても難しい。ナノメートルサイズの分子と粒子の境界を見ることは最先端のサイエンスでも困難で、それこそ我々の長年の夢でもあります。ただ、こういった水の不安定な状態は、実は生体に有効なのではないかというふうにも思っています。

空気中の水は微量なのに、肌や髪をしっとりさせたり私たちが感じとるのはそういった特性も要因ですか?

瀬戸そこはまだわかりませんが、重要なのは、水も含めて微粒子には生体との相互作用がある点です。大気中の微小な物体は呼吸で肺にも到達するし、皮膚の表面にもさまざまな影響を与えます。そのため、生体への影響を解析して悪いものは取り除くことが重要だし、また、健康にいいこともある。例えば、ドラッグデリバリーシステムという、体内にピンポイントで治療薬を届ける技術にも応用できます。

微粒子研究はここが面白い!

微粒子の物理学特性
一般的に微粒子はサイズが小さいほど物理的・化学的に不安定になり、サイズが変わると性質も変わることが知られています。サイズに起因する独自の性質を見出し、活用方法を開発することが重要です。微粒子の特性を調べることは、PM2.5など地球環境の問題の解決にもつながります。
光との相互作用
微粒子は光に触れると、吸収、散乱、反射、回折などさまざまな現象を引き起こし、自然界の色の多くは「光と微粒子の相互作用」によって生まれています。その相互作用は、粒子のサイズや素材、構造を精密に制御することで多様な光学機能を生み出します。機能性微粒子は、環境エネルギーから最先端医療、次世代デバイスまで幅広い分野で実用化・研究が進んでいます。
生体との相互作用
空気中や食品・衣類等に含まれるや微量有害物質が私たちの体に及ぼす影響を調べ、それらを制御する技術を開発し、空気環境を改善し、除菌・消臭などの技術でも快適な環境を生み出します。化粧品の効果を高めるためにも使用され、医療分野では、ナノ粒子技術により必要な部位だけに薬剤を届けるドラッグデリバリーシステム(DDS)に応用されています。

今はドラッグデリバリーシステムでもフィルター開発でも半導体でも、あらゆる産業がナノ粒子を活用していますね

瀬戸そうですね。素材としての粒子のサイズもどんどん小さくなっています。シリコンや磁性体を微細化する研究に取り組んだこともありますが、ナノメートルまで小さくすることで物質の性質が変わる。シリコンはナノ粒子にすると蛍光色が変化し、磁性体は小さくしすぎると磁性がなくなってしまうなど、微細化によって新しい特性を持った材料が生まれるんですね。

小さくなるとモノの性質が変わるのは驚きです。微粒子の研究は本当に奥が深いですね。先生はこれからどのような研究をされていく予定ですか?

瀬戸私自身は人や暮らしの役に立つ空気や空間のテクノロジーをより追究できたらと思っています。空気に含まれる物質と生体の相互関係を調べて人が快適に生活できる空気を作り出したり、気流や香りで空間を演出する可能性を探索したり。空気って人と最も接している、最も近いところにあるものなので、空気で人々の暮らしを豊かにする、そんなことができたらと思っています。

*1 PM2.5=PMはParticulate Matter(粒子状物質) の略で、2.5μm(1μmは1mmの1000分の1)以下の非常に小さな粒子のこと。
*2 1nm(ナノメートル) は、1mm (ミリメートル )の100万分の1。ちなみに1mm=1000μm (マイクロメートル) 、1μm=1000nm。
瀬戸章文/金沢大学理工研究域フロンティア工学系 微粒子システム研究グループ 教授
1996年、広島大学大学院工学研究科博士課程(後期)修了。博士(工学)。日本学術振興会特別研究員、工業技術院機械技術研究所(現・産業技術総合研究所)を経て、2007年金沢大学准教授に。2013年より金沢大学教授。ナノ~ミクロンオーダーの気相浮遊粒子(エアロゾル)計測技術を開発し、種々の環境計測に応用、環境浄化のためのエアフィルタや空気浄化技術を開発。微粒子に関する先端技術をコアとして、人々の暮らしや環境・エネルギーに関連するさまざまなソリューションにつながる研究開発を展開・統合した「微粒子システム」の構築を目指している。
Related Articles
What’s Water?······
水ってなあに?
アイルってなんだ?

私たちの命に、生活に必要な水のこと。まだまだ知らないことだらけの「水」について、さまざまな角度から見てみましょう。

AQUA / Research
水を探る

さまざまな角度から水を研究するエキスパートの方々にお話を伺い、水の不思議を探っていきます。水と水に関わる全てがテーマ。ホットな研究の話も満載です。

AQUA / Life
水を知る

ここでは私たちの生活や環境、健康と水の関わりをわかりやすく伝えていきます。水のことを知ると自分の体についてもいろいろなことがわかってきます。

AQUA / Play
水と遊ぶ